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桜咲く遠山鳥のしだり尾のながながし日もあかぬ色かな  (巻第二 春歌下99番)    2013/3/3−2013/5/29

 
和歌番号 和歌
0099 桜咲く 遠山鳥の しだり尾の ながながし日も あかぬ色かな
さくらさく とおやまどりの しだりおの ながながしひも あかぬいろかな
遠くの山に咲いている桜。山鳥のながいながい垂れた尾のような長い一日を過ごすのにあきさせない色だな。
0100 いくとせの春に心をつくしきぬあはれと思へみ吉野の花
いくとせの はるにこころを つくしきぬ あわれとおもえ みよしののはな
毎年毎年春が来れば、いつ桜は咲くか、まだか、もう散るのかと気をもんできたんですよ。そんな私をいとおしんでね、吉野の桜よ。
0101 はかなくて過ぎにしかたを数ふれば花にもの思ふ春ぞ経にける
はかなくて すぎにしかたを かぞえれば はなにものおもう はるぞへにける
格別のこともなく過ごしてきた年月を数えてみると、春だけは花に思いを寄せて過ごしてきたんだなあ。
0102 白雲のたなびく山の山桜いづれを花とゆきて折らまし
しらくもの たなびくやまの やまざくら いずれをはなと ゆきておらまし
白雲がたなびく山に咲いている山桜は、山へ行って折ろうとしたらどれが花なのか分かりにくいでしょうね。
0103 花の色にあまぎる霞立ちまよひ空さへにほふ山桜かな
はなのいろに あまぎるかすみ たちまよい そらさえにおう やまざくらかな
空に向かって曇らせている花色の霞がとっても漂っているので空さえ美しく目に映える山桜です。
0104 ももしきの大宮人はいとまあれや桜かざしてけふも暮らしつつ
ももしきの おおみやびとワ いとまあれや さくらかざして きょうもくらしつつ
宮廷に仕える人は暇があるんだろうか、今日も桜を髪や冠にさして皆一日過ごしている。
0105 花にあかぬ歎きはいつもせしかどもけふの今宵に似る時はなし
はなにあかぬ なげきはいつも せしかども きょうのこよいに にるときはなし
桜花を見飽きることがないというため息はいつもしてるけど、今日の今宵ほどその嘆きの深い時はないです。
0106 いもやすく寝られざりけり春の夜は花の散るのみ夢に見えつつ
いもやすく ねられざりけり はるのよワ はなのちるのみ ゆめにみえつつ
春の夜はぐっすりと眠ることが出来ません。花が散るさまばかりが何度も夢にくりかえしあらわれるので。
0107 山桜散りてみ雪にまがひなばいづれか花と春に問はなむ
やまざくら ちりてみゆきに まがいなば いずれかはなと はるにとわなん
山桜が散って雪と混ざってしまったら、どれが花なのか春に尋ねてみて。
0108 わが宿のものなりながら桜花散るをばえこそとどめざりけれ
わがやどの ものなりながら さくらばな ちるをばえこそ とどめざりけれ
我が家のものであるのだけど、桜の花が散るのを止めることはとてもできませんでした。
0109 霞立つ春の山辺に桜花あかず散るとや鶯の鳴く
かすみたつ はるのやまべに さくらばな あかずちるとや うぐいすのなく
霞立つ春の山辺に桜が咲いてます。鶯が見飽きることのない桜花が散るのを見ながらまだまだ見飽きることはないよと鳴いています。
0110 春雨はいたくな降りそ桜花まだ見ぬ人に散らまくも惜し
はるさめワ いたくなふりそ さくらばな まだみぬひとに ちらまくもおし
春雨よ、ひどく降らないでね。まだ桜花を見てない人には散ってしまうのは惜しいから。
0111 花の香に衣は深くなりにけり木の下蔭の風のまにまに
はなのかに ころもはふかく なりにけり このしたかげの かぜのまにまに
桜の木の下蔭に風が吹くままに従って、衣は花の香に深く染み入ってしまいました。
0112 風かよふ寝覚めの袖の花の香にかをる枕の春の夜の夢
かぜかよう ねざめのそでの はなのかに かおるまくらの はるのよのゆめ
春の夜は、風が吹き通って袖や枕にまで花の香りを染ませて夢から覚めても香りの中で夢心地。
0113 このほどは知るも知らぬもたまぼこのゆきかふ袖は花の香ぞする
このほどは しるもしらぬも たまぼこの ゆきかうそでワ はなのかぞする
この時期は、知ってる人も見知らぬ人も行き交う人の袖は花の香りがします。
0114 またや見む交野のみ野の桜狩り花の雪散る春のあけぼの
またやみむ かたののみのの さくらがり はなのゆきちる はるのあけぼの
再び見ることがあるのでしょうか。交野にあるお狩場での桜を尋ね歩いている時に花が雪のように散っている美しい春の曙を。
0115 散り散らずおぼつかなきは春霞たなびく山の桜なりけり
ちりちらず おぼつかなきは はるがすみ たなびくやまの さくらなりけり
散ったか散らないかはっきりしないのは、春霞がたなびいている山に咲いている桜ですね。
0116 山里の春の夕暮れ来て見れば入相の鐘に花ぞ散りける
やまざとの はるのゆうぐれ きてみれば いりあいのかねに はなぞちりける
山里の春の夕暮れ時に来てみたら、日没時に鳴る鐘の音が聞こえてきて花も散ってしまってました。
0117 桜散る春の山辺は憂かりけり世をのがれにと来しかひもなく
さくらちる はるのやまべは うかりけり よをのがれにと きしかいもなく
桜が散る春の山のほとりにいるのはつらいなあ。憂き世を逃れようとやって来ても花を惜しむ心が愛執して逃れられないです。
0118 山桜花の下風吹きにけり木の本ごとの雪のむら消え
やまざくら はなのしたかぜ ふきにけり きのもとごとの ゆきのむらきえ
山桜の木の下に風が吹いたようです。どの木の元も散った花が、雪のむら消えのように風に吹き飛ばされてまだらになってます。
0119 春雨のそほ降る空のをやみぜず落つる涙に花ぞ散りける
はるさめの そぼふるそらの おやみせず おつるなみだに はなぞちりける
春雨がしっとり降っている空から止むこともなく落ちる雫。そんな雫のように落ちる私の涙の中で花は散った。
0120 雁がねの帰る羽風やさそふらむ過ぎゆく峰の花も残らぬ
かりがねの かえるはかぜや さそうらむ すぎゆくみねの はなものこらぬ
北に帰る雁の羽風が誘うのかな。雁が去って行く峰の花も残ってません。
0121 時しもあれたのむの雁の別れさへ花散る頃のみ吉野の里
ときしもあれ たのむのかりの わかれさえ はなちるころの みよしののさと
時節と言うものがあって田の面の雁が旅立つ時と分かっていても、その別れは花が散る時分と相まって吉野の里のわびしきことです。
0122 山深み杉のむら立ち見えぬまで尾上の風に花の散るかな
やまふかみ すぎのむらたち みえぬまで おのえのかぜに はなのちるかな
山が深いので、群れになって立っている杉が見えなくなるまで頂に吹く強い風によって、どれだけ花が散っているのかなあ。
0123 木の下の苔のみどりも見えぬまで八重散りしける山桜かな
このしたの こけのみどりも みえぬまで やえちりしける やまざくらかな
木の下の苔の緑も見えなくなるまで幾重にも散り敷いている山桜です。
0124 ふもとまで尾の上の桜散りこずはたなびく雲と見てや過ぎまし
ふもとまで おのえのさくら ちりこずば たなびくくもと みてやすぎまし
麓まで頂の桜の花が散って来なかったら、頂にたなびく雲と見てしまって過ぎたでしょう。
0125 花散れば問ふ人まれになりはてていとひし風の音のみぞする
はなちれば とうひとまれに なりはてて いといしかぜの おとのみぞする
花が散ってしまうと訪れる人もほとんどいなくなってしまって、花を散らす厭わしい風の音だけが聞こえてくるわ。
0126 ながむとて花にもいたく馴れぬれば散る別れこそかなしかりけれ
ながむとて はなにもいたく なれぬれば ちるわかれこそ かなしかりけれ
物思いに沈みながらぼうっとと外を眺めている時に目に入る桜に非常に慣れ親しんでたので、散って別れることこそ悲しいことです。
0127 山里の庭よりほかの道もがな花散りぬやと人もこそ問へ
やまざとの にわよりほかの みちもがな はなちりぬやと ひともこそとえ
山里にある我が家の庭を通らないで他に道はないのかな。「もう散りましたか」と人が来て、落花を踏んでほしくないんです。
0128 花さそふ比良の山風吹きにけり漕ぎゆく舟の跡見ゆるまで
はなさそう ひらのやまかぜ ふきにけり こぎゆくふねの あとみゆるまで
比良の山風が花を誘って吹いたようです。漕いで行く舟の航跡が分かるくらい花が散ってます。
0129 逢坂や梢の花を吹くからにあらしぞ霞む関の杉むら
おおさかや こずえのはなを ふくからに あらしぞかすむ せきのすぎむら
逢坂山は、梢の花をすごく吹き散らすので山の強い風がかすんでしまうのだ、逢坂の関がある辺りの杉の群れでは。
0130 山高み峰のあらしに散る花の月にあまぎるあけがたの空
やまたかみ みねのあらしに ちるはなの つきにあまぎる あけがたのそら
山が高いので峰に吹く風が強いので散る花によって月が霞曇る明け方の空です。
0131 山高み岩根の桜散る時は天の羽衣なづるとぞ見る
やまたかみ いわねのさくら ちるときワ あまのはごろも なずるとぞみる
山が高いので岩の間から生えた桜が散る時は、天の羽衣で岩をそっと撫でているように見てしまいます。
0132 散りまがふ花のよそ目は吉野山あらしにさわぐ峰の白雲
ちりまがう はなのよそめワ よしのやま あらしにさわぐ みねのしらゆき
吉野山の桜の花が散り舞う様子をよそから眺めると、峰の白雪が強い風にあわただしく騒いでいるように見えます。
0133 み吉野の高嶺の桜散りにけりあらしも白き春のあけぼの
みよしのの たかねのさくら ちりにけり あらしもしろき はるのあけぼの 
吉野の高い峰に咲いている桜が散ってしまった。山風も白く見える春の明け方です。
0134 桜色の庭の春風あともなし問はばぞ人の雪とだに見む
さくらいろの にわのはるかぜ あともなし とわばぞひとの ゆきとだにみむ
春風が吹いて庭を桜色にしたその春風が桜を吹き散らした。もし訪れる人がいたら雪が積もっているとだけでも見るかも。
0135 けふだにも庭を盛りと移る花消えずはありとも雪かとも見よ
きょうだにも にわをさかりと うつるはな きえずワありとも ゆきかともみよ
今日だけでも木から庭へと散った花が庭で満開しているが、花ではなくて消えずに残っている雪と見てほしい。
0136 さそはれぬ人のためとや残りけむあすより先の花の白雪
さそわれぬ ひとのためとや のこりけん あすよりさきの はなのしらゆき
誘われなかった私のために残ったのでしょうか。明日より以前である今日拝見する花の白雪は。
0137 八重にほふ軒端の桜うつろひぬ風より先に問ふ人もがな
やえにおう のきばのさくら うつろいぬ かぜよりさきに とうひともがな
八重に美しく咲いていた軒先の桜も色あせてきました。散らせてしまう風より先にどなたか訪れる人はいないのかな。
0138 つらきかなうつろふまでに八重桜とへともいはで過ぐる心は
つらきかな うつろうまでに やえざくら とえともいわで すぐるこころワ
意地悪ですね。庭の八重桜が色あせるまで見に来なさいと誘わないで過ごしてきたそのお気持ちは。
0139 桜花夢かうつつか白雲のたえてつねなき峰の春風
さくらばな ゆめかうつつか しらくもの たえてつれなき みねのはるかぜ
桜花と見たのは夢だったのか現実だったのか。白雲が絶えてしまい、峰には変わりなく春風が吹いている。
0140 恨みずや憂き世を花のいとひつつさそふ風あらばと思ひけるをば
うらみずや うきよをはなの いといつつ さそうかぜあらば とおもいけるをば
恨まないの?花が憂き世を嫌って、誘う風があったら風に身を任せて散ってしまおうと思っていることを。
0141 はかなさをほかにもいはじ桜花咲きては散りぬあはれ世の中
はかなさを ほかにもいわじ さくらばな さきてワちりぬ あわれよのなか
はかなさを他のものと比べて言いません。桜の花は咲いたと思ったら散っていった。あぁこれがこの世の常なんです。
0142 ながむべき残りの春を数ふれば花とともにも散る涙かな
ながむべき のこりのはるを かぞうれば はなとともにも ちるなみだかな
ずっと花を楽しんできましたが、あと何日楽しめるのか残されている春の日を数えると、散る花とともに涙も散っていきます。
0143 花もまた別れむ春は思ひ出でよ咲き散るたびの心づくしを
はなもまた わかれんはるワ おもいでよ さきちるたびの こころづくしを
花の方でも散ってお別れの日が来たら思い出してね。咲いたり散ったりするたびに私が喜んだり気をもんだりしたことを。
0144 散る花の忘れ形見の峰の雲そをだに残せ春の山風
ちるはなの わすれがたみの みねのくも そをだにのこせ はるのやまかぜ
散ってしまった花の忘れ形見である峰の雲。それでけでも残しておいてね、春の山風さんよ。
0145 花さそふなごりを雲に吹きとめてしばしはにほへ春の山風
はなさそう なごりをくもに ふきとめて しばしワにおえ はるのやまかぜ
花を誘って散らしてしまった後の花の名残の香りを雲に留めて、しばらくの間香っていてください、春の山風さんよ。
0146 惜しめども散りはてぬれば桜花いまは梢をながむばかりぞ
おしめども ちりはてぬれば さくらばな いまはこずえを ながむばかりぞ
惜しんだけれどすっかり散ってしまった桜花。今は梢を眺めているだけです。
0147 吉野山花のふるさと跡絶えてむなしき枝に春風ぞ吹く
よしのやま はなのふるさと あとたえて むなしきえだに はるかぜぞふく
花が散った後の古里、吉野山に誰も来なくなって、花のない葉だけの枝に春風だけが吹いてます。
0148 ふるさとの花の盛りは過ぎぬれて面影さらぬ春の空かな
ふるさとの はなのさかりワ すぎぬれて おもかげさらぬ はるのそらかな
古里の花の盛りは過ぎてしまったけど、花の面影は残っている春の空ですよ。
0149 花は散りその色となくながむればむなしき空に春雨ぞ降る
はなワちり そのいろとなく ながむれば むなしきそらに はるさめぞふる
花は散ってしまったので、その美しさに惹かれて眺めているわけでなく眺めていると、なにもない大空に春雨が降ってます。
0150 たがたにかあすは残さむ山桜こぼれてにほへけふの形見に
たがたにか あすワのこさん やまざくら こぼれてにおえ きょうのかたみに
誰のために明日まで残す必要がありますでしょうか。山桜よ、散りこぼれて色映えてくださいね、今日の思い出として。
0151 唐人の舟を浮かべて遊ぶてふけふぞわが背子花かづらせよ
からひとの ふねをうかべて あそぶちょう きょうぞわがせこ はなかづらせよ
モロコシの人が舟を浮かべて遊ぶという、今日はその3月3日です。皆さんも花で作った髪飾りをつけなさい。
0152 花流す瀬をも見るべき三日月のわれて入りぬる山のをちかた
はなながす せをもみるべき みかづきの われていりぬる やまのおちかた
花を流す瀬を見ようとしていたのに照らしてくれる月は三日月なので早くも入ってしまった山のむこうの方へ。
0153 尋ねつる花もわが身もおとろへてのちの春ともえこそ契らね
たづねつる はなもわがみも おとろえて のちのはるとも えこそちぎらね
花見にやって来たその花も私もすっかり衰えてしまい、これから先の春にまた会おうと約束もできません。
0154 思い立つ鳥は古巣も頼むらむなれぬる花のあとの夕暮れ
おもいたつ とりワふるすも たのむらん なれぬるはなの あとのゆうぐれ
谷に帰ろうと思い立った鶯は住んでいた谷の巣を頼れるね。慣れ親しんだ花が散った後夕暮れになって私はどこで過ごせばいいのか。
0155 散りにけりあはれ恨みのたれなれば花のあと問ふ春の山風
ちりにけり あわれうらみの たれなれば はなのあととう はるのやまかぜ
散ってしまった。その恨めしさを誰のせいにしようと、花が散った後に問いにやって来るの山の春風さん。あんたのせいでしょ!。
0156 春深く尋ねいるさの山の端にほの見し雲の色ぞ残れる
はるふかく たずねいるさの やまのはに ほのみしくもの いろぞのこれる 
春も深まった頃、訪ね入った入佐の山の山の端に、ほのかに見える雲に春爛漫の時に花と見間違ったのと同じような色が残ってます。
0157 初瀬山うつろふ花に春暮れてまがひし雲ぞ峰に残れる
はつせやま うつろうはなに はるくれて まがいしくもぞ みねにのこれる
初瀬山の花が散って春も終わりに近づいたけど、花と見間違った雲が山の峰にまだ残ってます。
0158 吉野川岸の山吹咲きにけり峰の桜は散りはてぬなむ
よしのがわ きしのやまぶき さきにけり みねのさくらは ちりはてぬなん
吉野川の岸に山吹が咲いています。ということは、山の峰の桜は散ってしまったのでしょうね。
0159 駒とめてなほ水かはむ山吹の花の露そふ井手の玉川
こまとめて なおみずかわん やまぶきの はなのつゆそう いでのたまがわ
馬を止めてもっと水を飲ませましょう。山吹の花の露が落ちて加わった井出の玉川。馬に水を飲ませて山吹の花の観賞だ。
0160 岩根越す清滝川の早ければ波折りかくる岸の山吹
いわねこす きよたきがわの はやければ なみおりかくる きしのやまぶき
大きな岩の上を越していく清滝川の流れがとても速く、岸の山吹に波が押し寄せてきては返して山吹を折ってしまいそうです。
0161 かはず鳴く神南備川に影見えて今か咲くらむ山吹の花
かわずなく かんなびがわに かげみえて いまかさくらん やまぶきのはな
美しい声で鳴くかじか蛙が鳴いている神南備川に今や山吹の花は咲きほころんでその姿を映しているのでしょうか。
0162 あしひきの山吹の花散りにけり井手のかはづは今や鳴くらむ
あしびきの やまぶきのはな ちりにけり いでのかわずワ いまやなくらん
山吹の花はもう散ってしまいました。井出の玉川のかじか蛙は今鳴いてるんでしょうか。
0163 かくてこそ見まくほしけれ万代をかけてにほえる藤波の花
かくてこそ みまくほしけれ よろずよを かけてにおえる ふじなみのはな
このように見続けていたいなあ、いつの世になっても美しく咲きほころぶ藤の花を。
0164 まとゐして見れどもあかぬ藤波の立たまくをしき今日にもあるかな
まといして みれどもあかぬ ふじなみの たたまくをしき きょうにもあるかな
みんなで一緒に見ていてもずっと見飽きない藤波ですが、波が立つように立ち去らないといけないのが惜しい今日という日です。
0165 暮れぬとは思ふものから藤波の咲ける宿には春ぞ久しき
くれぬとワ おもうものから ふじなみの さけるやどにワ はるぞひさしき
春はもう終わってしまったと思うものの、藤の花が咲いている館には春はずっと留まっていますよ。
0166 みどりなる松にかかれる藤なれどおのが頃とぞ花は咲きける
みどりなる まつにかかれる ふじなれど おのがころとぞ はなワさきける
常緑の松に寄りかかってる藤ですが、私の季節が来たわよと花が咲きほころんでいます。
0167 散りのこる花もやあるとうちむれてみ山隠れを尋ねてしかな
ちりのこる はなもやあると うちむれて みやまがくれを たずねてしかな
まだ散らずに残っている花もあるかもしれないから、みんなで一緒に山深く探しに行ってみたいね。
0168 木の本のすみかも今は荒れぬべし春し暮れなば誰か問ひ来ぬ
このもとの すみかもいまワ あれぬべし はるしくれなば たれかといこぬ
木の下にあった私の庵も今は荒れてしまったでしょう。春も暮れてしまったら誰が訪れて来るでしょうか。
0169 暮れてゆく春のみなとは知らねども霞に落つる宇治の柴舟
くれてゆく はるのみなとワ しらねども かすみにおつる うじのしばふね
暮れていく春がどこへ行くのか知りませんが、宇治川に柴を積んだ舟が霞の中下って行きます。
0170 来ぬまでも花ゆゑ人の待たれつる春も暮れぬるみ山辺の里
こぬまでも はなゆえひとの またれつる はるもくれぬる みやまべのさと
来ないと分かってますよ、花が咲いたから訪れる人が来ることを待った春も暮れてしまった山辺の里には。
0171 いそのかみ布留の早生田をうち返し恨みかねたる春の暮れかな
いそのかみ ふるのわさだを うちかえし うらみかねたる はるのくれかな
大和の国の布留の早生の種の田を耕す為に鍬をふるように恨んでも恨んでも繰り返し恨んでしまう春の暮です。
0172 待てといふにとまらぬものと知りながらしひてぞ惜しき春の別れは
まてというに とまらぬものと しりながら しいてぞおしき はるのわかれワ
待ってと入っても無駄なことと分かっていても、むしょうに名残惜しい春の別れです。
0173 柴の戸にさすや日影のなごりなく春くれかかる山の端の雲
しばのとに さすやひかげの なごりなく はるくれかかる やまのはのくも
柴の戸を閉めようとしたら、射していた日の光も雲に隠れ、一日が暮れようとし、春も暮れようとしている、山の端の夕暮れの雲
0174 あすよりは 滋賀の花園 まれにだに 誰かは問はむ 春のふるさと
あすよりは しがのはなぞの まれにだに たれかワとわん はるのふるさと
夏になる明日からは、春のふるさとでもある滋賀の花園をたまにでも誰か訪ねる人はいるのでしょうか。


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